星ナビ天体画像処理コンテスト
 
☆トップ賞発表 テーマ「月1」
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「月1」のテーマには、8点の応募がありました。トップ賞は、わずかの差で埼玉県の吉野幸宏さんとなりました。月の美しさの基準は人によって異なりますが、月面をキリッっとシャープに仕上げた吉野さんの応募作が接戦を制しました。


 

月1
月1
素材提供/沼澤茂美

素材は星ナビ2003年5月号付録CD-ROMに収録されています。

作品004トップ賞

吉野幸宏さん

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【使用ソフトウェア】 AdobePhotoshop7.0

【主な処理】

 まず2つの画像を同一ファイルのレイヤーにペーストし、重複部分で位置合わせをします。デジカメの場合回転は生じないはずですが、今回は東側を0.1度反時計回転したときにベストマッチングとなりました。歪曲収差による像のずれはほとんどありませんでした。本来ならば重複部分の中央をつなぎ合わせのラインとするべきですが、西側の方がシーイングが良かったらしく画像がシャープなため、西側をなるべく多く残すことにし、重複部分の東側をぎりぎりまでカットしました。続いて、モザイク合成のつなぎ目の輝度と色調をそろえるため、合成する方(この場合は東側部分)をトーンカーブ調整します。全体を1回で調整することは困難なため、部分部分で範囲指定をして丁寧に合わせてゆきます。更につなぎ目を滑らかにするため、境界をぼかしてカット合成します。このとき、ぼかし量を大きくするほどつなぎ目が目立たなくなりますが、今回のように、各コマで解像度に差がある場合、ぼかしを大きくすると像がボケる上に、後でアンシャープマスクを掛けたときに輪郭が二重線になってしまうため、ぼかしは必要最小限に抑えました。ところどころつなぎ目が目立つところはぼかしを大きめにしたパッチを当てて修正しました。

 次にCCDのゴミと傷を修正します。大きなゴミが重複部分にある場合は、ゴミのない画像からパッチを切り取って重ねます。ない部分はスタンプツールで丁寧に消してゆきます。完全な満月の画像が出来上がったところで、レイヤーを統合して全体の色と輝度の調子をトーンカーブで調整します。このとき、輝度に飽和部分が生じないように注意します。最終画像の彩度・色相はこの画像から取得します。次に、アンシャープマスクを掛けて画像の解像度を上げてゆきます。グレースケールに変換してアンシャープマスクを強力に掛けます。ぼかし量を決めると、画像に輝度の飽和が生じない(あるいはごくわずかしか生じない)という制約条件により、最大の適用量が決まります(しきい値はいずれも0)。ぼかし量が大きいと画像がぼけ、小さいとノイズが卓越して画像が荒れますから、画像の解像度改善効果が最大となる最適なぼかし量と適用量の組み合わせが決定できます。適用量が500%でも不足する場合は、アンシャープマスクを2度掛けします。ただし最適といっても、1つの組み合わせだけでは、階調が乏しく、ノイズも目立つため、最適ぼかし量の前後数段階についてアンシャープマスク画像を作成し、コンポジットしてやります。ぼかし量の上限は、像を重ねても像がボケない事を基準とし、下限はノイズによって解像度が悪化しない事が基準となります。

 こうして第一段階のアンシャープマスク画像が出来上がります。当然のごとく、コンポジットしてもノイズは強調されるため、スポットノイズは中間値フィルターで、全体の粒子の荒れは『輪郭以外をぼかす』コマンドを使ってそれぞれ平滑化します。画像が平滑化されたことによって、更にもう1段アンシャープマスクを掛けられるようになります(特にぼかし量が小さい条件において)ので、先の作業を解像度の向上とノイズの目立ち具合を見ながら何回か繰り返します。今回は3回行いました。また、強力なアンシャープマスクによって、月縁に白い縁取りができますが、これは別途処理した画像をはめ込み合成して目立たなくしました。最後に調子を微調整して輝度画像の完成です。前述の色画像の上のレイヤーにペーストしたら描画モードを『輝度』にし、最終的な輝度と色調をトーンカーブで微調整したら最終画像の完成です。

 

【処理の感想、コメント】

 元画像を見たときは「こいつは大変だ」と思いましたが、一眼レフデジカメの階調の豊富さ、ノイズの少なさがなせる技か、結構シャープな像になりました。途中のパラメータを変えることにより、もっと軟調にももっと硬調にも仕上げることが可能ですが、満月ということで今回はやや硬調寄りに仕上げました。とはいっても、解像度優先でアンシャープマスクを都合4回も重ねている、超が2個付くくらいの輪郭強調処理をしていますから、普通の処理から見たら、とんでもない硬調といった方が正しいかもしれません。今回は東側のコマのちょうど重複する部分あたりの解像度が悪く、よく見るとこの影響で、ティコのすぐ左を斜め左下に伸びるつなぎ目の左右で解像度が異なるのがわかります。

月縁については、元画像に輪郭強調がかかっているのか、二重線が現れて修整に苦労しました。月面の色についてはいつも大いに悩むところで、一見するとモノクロのようですが、海はかすかに緑がかったグレイ、高地はほんのり赤味が差した黄色に仕上げています。アリスタルコス大地は「月面で最も赤い」と形容されますが、画像を見ると納得します。


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