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二色に分かれるカイパーベルト天体

国立天文台・天文ニュース (161)


【1998年3月12日 国立天文台天文ニュース

 主として海王星より遠い太陽系外縁部に、ほぼ円軌道で太陽を回っている小天体がす でに60個以上も発見され、カイパーベルト天体(Kuiper-belt Objects;KBOs)と呼ばれて いることはご存じでしょう。これらの天体の色を観測した結果、赤いものと青いものに きれいに分かれて、中間色のものは存在しないという結果が得られました。

これらの天体は非常に暗く、発見すること自体がたいへん困難ですから、まして、そ の色を観測することは容易ではありません。しかし、その性質を探る物理的観測の第一 歩として、この種の測光観測はたいへん重要です。北アリゾナ大学のテグラー(Tegler, S.C.)らは、あえてこの困難に挑みました。彼らは、スチュワード天文台の口径2.3メー トル望遠鏡のカセグレン焦点にCCDカメラを取り付け、B(450nm),V(550nm),R(650nm)の 三色測光をおこなったのです。

 この種の天体の測光観測は、恒星とは異なる困難さがあります。地球の公転によって 見かけの位置が移動するため、ときに背後の微光の恒星や銀河の光が入り込み、測定精 度を下げます。カイパーベルト天体はその形が不整であるため、自転によって光度が変 わります。暗い、移動する、さらに光度が変化するこのような天体の測光には、細心の 注意が必要です。それでも彼らは、16個のカイパーベルト天体で、それぞれの波長に対 し、その明るさに応じて、300秒から900秒の観測をすることに成功しました(3天体に対 してBは未測定)。測定した天体の中には、比較的最近にカイパーベルトから海王星軌道 の内側に落ち込んできたと考えられ、一般にセントールと呼ばれている、キロン、フォ ーラスも含まれています。

 その結果は予想外のものでした。これらの天体は、はじめに述べたように、赤い一群 と青い一群にきれいに分かれてしまったのです。ここで「赤い」といったのは天文学上 の表現で、B-V等級が大きいことを意味します。実際の色は灰色味を帯びた褐色といっ た程度(B-V等級1.2等)です。同様に「青い」というのはB-V等級が小さいことで、現実 には太陽程度の色(B-V等級0.7等)を意味します。それにしても、二群の色の差はB-V等 級で0.5等級にも達し、測定の誤差よりずっと大きいのです。したがって、この二群に は何か本質的な差があると考えられます。

 では、その色の差は何を意味するのでしょうか。長半径、離心率、軌道傾斜角といっ た軌道要素との相関は見いだされていませんし、大きさとも関係はないようです。太陽 風、宇宙線などの作用の差が表面の状態を変えたのかもしれませんが、いまのところは っきりしたことは何もわかっていません。この説明については、多くの観点から考えな ければなりませんし、さらに観測データを増やすことが必要と思われます。

参照 Chapman,Clark R. Nature 392,p.16-17(1998).

Tegler,S.C. et al., Nature 392,p.49-50(1998).

    1998年3月12日          国立天文台・広報普及室



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