アラバマ大学の天文学者ウィリアム・キール教授とレイモンド・ホワイト教授が、
アメリカ・ワシントン州で開かれた天文学会の席上で、「2つの重なる銀河のシルエット」
を利用して、遠方銀河の明瞭な星間ダストの形状を捉えることに成功した、と発表した。
この発見は、ハッブル宇宙望遠鏡(HST)、
および欧州宇宙機関(ESA)の赤外線宇宙望遠鏡(ISO)の観測によるもの。
1990年以前は、銀河の中にダストが存在することはわかっていたが、
それが銀河の明るさや星の数を調べる観測に影響を与えるほどのものではない
と考えられていた。
ところが、1990年にエドウィン・ヴァレンティンによって、
こうした考え方に疑問が投げかけられ、その後、
典型的な銀河に存在するダストの量とその影響について、
天文学者たちの間で論争となっていた。
今回の発見は、こうした論争に一石を投じる可能性があるものとして期待されている。
ヴァレンティンは、大部分の銀河がダストによって不透明になっていること
を証明するために、最初、銀河カタログによる統計的データを用いた。
しかしその後、こうした統計的な根拠は、銀河カタログの選択方法によって
歪められてしまう可能性があることが指摘された。
そこで、キール教授とホワイト教授は、統計的な曖昧さを回避するために、
遠方にある銀河を近くの銀河が部分的に覆っているケース、
すなわち見かけ上重なり合っている銀河の組を調査することによって、
より信頼性の高い観測結果を得ることができた。
観測に用いられたのは2つの銀河の対で、 それぞれ遠方の楕円銀河に手前の渦巻き銀河が重なるタイプのものであった。 遠方の楕円銀河から発した光が渦巻き銀河を通過するさいに、 その透過ぐあいを観測することによって、渦巻き銀河に含まれる ダストの性質を調べようというものである。ただ、ともにひじょうに暗いため、 NGC カタログに記載はなく、特異な形状の銀河を集めた 南天のアープ・マドラー(AM)カタログに、最初に掲載された銀河たちである。 ひとつは、うみへび座にある銀河AM1316-241で、 距離は約40億光年( レッドシフト値 z=0.033) 。 もうひとつのAM0500-620は南天のかじき座にあり、 約35億光年離れた銀河である( レッドシフト値 z=0.028) 。
ハッブル宇宙望遠鏡を用いて行われた観測によると、銀河中のダストに関して、
以下のような新たな事実が明らかにされた。
1)「ダストは銀河の渦巻きの腕にそって群がっており、 分布にツギハギ状の疎密がみられる」
2)「今回得られた画像からは、ダストが多く集まった場所でも 従来から考えられていたほどの強い光の吸収はなく、 青い光の少なくとも20パーセントが通過し、また、近赤外線の光も 多く透過することがわかった。これは、 銀河系の銀河の腕を横から観測することによって 得られた予測に反する結果である」
3)「ダストに富んだ渦巻きの腕は、予測したほど明瞭な構造を持っていない」
4)「ダストの集合体は、全面に広がっているのではなく、 観測できうるもっとも小さいサイズから500 光年ほどのサイズまで、 まちまちの大きさを示す」
5)「今回観測された2つの銀河は、 典型的な渦巻き銀河であったにもかかわらず、 渦巻き状の腕の中にあるダストの広がりや分布、 および素材が異なっていた」
また、ISO による赤外線の観測では、ダストが放射する遠赤外線を捉えることで、 星形成の痕跡やダストの量を測定し、ハッブル宇宙望遠鏡による観測データを 補足する結果を出すことに成功している。
さて、これらの観測成果を総合すると、今回捉えられたダストの領域では、 そう活発な星形成は起こっていないと推定される。 また、ダストによる吸収がさほど大きくないということは、 たとえば「銀河ダストによる吸収が、大きなレッドシフト値を持った クエーサーの観測を妨げている」との仮説が成り立たないことを示唆するもの として注目される。また、ダストがどの程度の量存在し、 どれくらい光を吸収するかといった定量的な問題も未解明で、 キール教授とホワイト教授は、この方向においてさらなる研究が必要だと指摘している。 今後に予定されているハッブル宇宙望遠鏡による新しい赤外線機器(NICMOS) を使った観測によって、こうした状況がいくらか改善されることに期待したい。
なお、詳細はhttp://oposite.stsci.edu/pubinfo/pr/1998/dusty-spirals.html にて公開されている。