○ 統計的な雲量分布


 皆既月食の起こる7月16日の夜は、日本のどこが晴れやすいのでしょうか? 天気の統計の中から雲量のデータをあたってみました。

 

● 皆既月食の始まる時間 − 7月16日21時の平均雲量

 下図は、月食が始まる7月16日21時の平均雲量を示したものです。
 雲量とは全天の何割が雲に覆われているかを示す指数のことで、まったく雲がないときが0、半分雲で覆われているときが5、全天雲のときが10となります。全国148か所の38年分のデータをもとに地図上に描きました。

 南西諸島と九州の半分を除いた日本のほとんどの地域が雲量が7よりも大きい領域に入っています。つまり、日本の多くの地域の空は皆既月食が始まるときに7割以上雲に覆われ、赤い月が雲間に見え隠れするのをみることになるでしょう。

7月16日21時の平均雲量

● 7月16日21時の平均雲量
 皆既月食が始まる7月16日21時の平均雲量を38年間の統計データより求めた。統計期間は1961〜98年。地点はその中で20年以上の観測がある気象官署148地点(南鳥島を除く)を選んだ。データは気象庁月報より。

 梅雨の真っ只中だけあって、全国的に平均雲量は大きい。空に晴れ間が広がるのは九州南部から南西諸島、小笠原諸島に限られる。北海道は梅雨がないと言われ雨量はそれほど多くはないが、雲量は北日本と同程度。日本でいちばん曇りやすい地域となっている。

 

● 月食が楽しめる夜空になる確率 → 雲量が5以下になる確率

 とはいえ、平均雲量といってもピンと来ないかもしません。たとえば、平均雲量5と言っても10年間ずっと雲量5が続くのか、雲量0と雲量10が5年づつやってくるのかは判断がつきません。
 そこで次に、皆既月食の経過が楽しめるくらいに空が晴れる確率を求めてみました。月食を楽しむとなると空の半分以上は晴れていてほしいものです。半分以上雲があると、雲の往来が気になって月食を楽しむというわけにはいかなくなってくるためです。
 下図は、皆既月食が始まる時間に空の半分以上が晴れている確率、つまり雲量が5以下となる確率を求めたものです。

 その結果を箇条書きにしてみます。

地 域

月食を楽しめる
空になる確率
南西諸島・小笠原諸島と九州南部 50%以上
西日本の大部分 30%未満
東日本・北日本の大部分 20%未満

 つまりこの7月16日は、本州の大部分では3年に1度、東日本・北日本では5年に1度程度しか、月食が楽しめる程度の空にならないのです。今回の月食観望は天候的には厳しいものがあります。

月食が楽しめる夜空になる確率

● 月食が楽しめる夜空になる確率 → 雲量が5以下になる確率(%)
 上図と同じデータを用いて、月食開始時に雲量が5以下になる確率を求めてみた。この場合も先程と結果は同様で、南西諸島と小笠原諸島、それに九州の南部で晴れる確率が高い。よくみると関東平野や濃尾平野がやや確率が高く、山岳部より平野部でやや晴れやすい傾向があるようだ。

 

● 月がまったく見えない確率 → 雲量が9以上になる確率

 そこまで天気が悪いのならと、逆に月がまったく見えない確率を求めてみました。全天の8割が雲に覆われても、わずかに雲間に月が覗くことがあるかもしれません。しかし、9割雲に覆われれば月が見えることはほとんどないでしょう。ということで、雲量が9以上になる確率を求めてみました。

 図を見ると、北海道の太平洋岸から三陸・盛岡にかけてと、前橋・軽井沢にかけての地域に月がまったく見えない確率が80%以上の領域があります。それらを中心として本州の大部分の地域で確率が50%以上になっています。今回の月食では本州の大部分で月がまったく見えないことを覚悟しなければならないと言えましょう。逆に九州南部より南では、月が見える確率のほうが高くなっています。日本の最西端の八重山列島では80%以上の値が出ていて、まず月が見えないと言うことはなさそうです。

雲量が9以上になる確率

● 月がまったく見えない確率 → 雲量が9以上になる確率(%)
 今度は今までと逆に、月食開始時に雲量が9以上になる確率を求めてみた。本州の大部分では確率が50%を越えており、今回の月食は雲に阻まれ、まったく月を見ることができないことも覚悟しなければならないだろう。天文的な条件はかなり恵まれた今回の月食だが、気象条件的には厳しい皆既月食だ。
 図をよく見ると、九州北部から豊後水道、瀬戸内海、紀伊水道などが九州南部と同じ確率40%以下の黄色のエリアになっており、このあたりも相対的に月が見えやすいエリアに入っていることがわかる。データは最初の図と同じ気象庁月報より。

 

● 今回の月食は見えたらラッキー

 以上の3つの図から統計的にハッキリ言えることは、九州南部、できれば沖縄か小笠原に行かなければ、月食をよい条件で見ことは難しい、と言うことです。九州北部より東の地方では、今回の月食は気象条件的にはかなりリスキーであり、月食を楽しむどころか月を見ることすらおぼつかないかもしれません。また、雲量のデータからは、日本列島を東に北に行くほど条件が悪くなり、梅雨がないといわれる北海道は、意外に曇ることが多いことがわかます。

また、図を細かく見ると、以下の傾向が見えてきます。

  1. 山岳域は曇りやすく、大きな海岸平野などの海に面した平野でやや晴れやすい傾向がある。
  2. 茨城以北の太平洋岸で雲量が多く、この地域に悪天をもたらす北東気流“やませ”との関連性が示唆される。
  3. 南西諸島は全般的に晴れやすいが、沖縄本島よりその南北の方が条件がよい。

 日本の多くの地域では、月食を楽しめるレベルの空になるのは4年に1度、どうにか月を見ることができるのでさえ2年に1度といった感じです。ウラを返せば2年に1度は曇ってしまい、皆既中の月を拝むことさえできないということになります。

 一言で言えば、今回の月食は見えたらラッキー。もし見ることができたら貴重な観測記録となるかもしれません。月食が見えたらぜひとも記録に残しておきましょう。

 

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