○皆既月食を記録に残そう

月食を写真に残す

 もっとも一般的な記録方法といえば、写真だろう。 撮影にはいろいろな手法があるが、35ミリ判カメラの場合、満月はレンズの焦点距離の100分の1程度の大きさにしか写らないので、月を画面いっぱいに大きく写すには、焦点距離の長い望遠レンズでの撮影や天体望遠鏡の直焦点撮影などの手法が必要になる。
 望遠鏡による直焦点撮影ならふつうの月面撮影とおなじスタイルで行なえる。 ただし、食分が大きくなるほど露出を長くする必要がある。 とくに皆既中の月面の明るさは適正露出の見極めがとても難しいので、基準となる値から前後数段ずらして、何コマか撮影しておくという段階露光は必須だ。 さらに、今回の月食は月が地球の影の中心付近を通過するため、皆既の始めや終わりのころと食の最大のころとでは、月面の明るさにかなりの差があると思われるので注意したい。
 また、皆既中は通常の月面撮影と比較して露出時間がひじょうに長くなるので、月の固有運動の影響で、赤道儀を使い恒星時追尾を行なっていても月がブレてしまう可能性がある。そんなときは露出を短くするために高感度フィルムを使うか、月を追尾できるなモータードライブ装置を使用したいところだ。
 なお、こうした大がかりな機材を使わなくとも、カメラさえあれば欠けていく月をフィルムに収めることは可能だ。 ただし、オート露出しかできないコンパクトカメラや使い切りのレンズ付きフィルムなどでの撮影は難しいので、できればマニュアル露出が可能な一眼レフカメラを用意したいところ。 もちろん、手振れを起こさないように三脚も用意しよう。
 ほかにも、広角レンズを使って、欠けてゆく月を1コマのフィルムに連続して写す連続撮影もおもしろい。 多重露出が可能なカメラを持っているなら、ぜひ挑戦してほしい。
 また、皆既中の月面が暗い場合、皆既中の月を入れた星野写真の撮影も行なうことができる。 月はいて座の天の川からやや東へ離れた位置にあるので、天の川を含めた構図で撮影してみよう。

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○1993年6月の皆既月食はさそり座のアンタレスのすぐ近くでおきた。 ピナトゥボ火山の噴火の影響で、非常に暗い月食だったので、長時間露出で天の川と皆既中の月をとらえられた。


焦点距離による月の大きさ(35mm判)

天体望遠鏡の直焦点撮影や望遠レンズの撮影での月の大きさは、焦点距離×tan(月の視直径)で求められる。 今回の皆既中の月の視直径は29.7分角なので、1000mmの焦点距離のレンズでは、月はフィルム上で直径8.6mmに写る。 おおまかには、レンズの焦点距離の約1/100の大きさに写ると考えればよい。


月食の露出表(ISO400フィルムの場合)

食分/F値 4 5.6 8 11 16 22
満月 1/4000 1/2000 1/1000 1/500 1/250 1/125
欠け始め 1/4000 1/2000 1/1000 1/500 1/250 1/125
食分20% 1/2000 1/1000 1/500 1/250 1/125 1/60
食分40% 1/1000 1/500 1/250 1/120 1/60 1/30
食分60% 1/500 1/250 1/125 1/60 1/30 1/15
食分80% 1/125 1/60 1/30 1/15 1/8 1/4
皆既前後 1/2 1 2 4 8 16
皆既中 15 30 60 120 250 500

月食の露出表(数値はシャッタースピード)。 表は感度がISO400フィルムのときで、ISO100では4倍、ISO1600では4分の1倍の露出が適正になる。 また、月の地平高度が低い場合は大気による減光があるので、20度で1.5倍程度露出を増やす必要がある。 表はあくまでめやすであり、前後数段の露出は必要となる。


月をスクリーンに地球の影を撮る

 月食といえば、地球の影の存在を連続撮影で一枚のコマに写し込むという撮影法がある。 これは赤道儀で写野を追尾しながら移動していく月を多重露出で撮影するというものだ。 多重露出の枚数が多くなると失敗の可能性も増すが、最低限3回の露出を試みたい。 なお、本影の固有運動のため、影の縁は真円にはならない。

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