○今回の皆既月食について

 皆既中の月の明るさに注目しよう

 皆既中の月面の明るさは月食のたびに違うので、今回どの程度暗くなるのかも大きな注目点だ。 月面の明るさは、観測地周辺の気象条件などによる大気減光なども影響するが、おもに大規模な火山噴火と皆既月食の食分の深さによって決まる。 そこで、この2つから明るさを予想してみた。(星空天気予想士 田中博春)

●大規模な火山噴火

 大規模な火山噴火により噴煙が大量に成層圏に注入されると、太陽光を大きく散乱する硫酸性エアロゾルが大量に生成される。 皆既中の月の明るさにはこの成層圏に漂う硫酸性エアロゾルの量が大きな影響を及ぼすことになる。
 実際、1993年6月4日の皆既月食は2年前におきたフィリピンのピナトゥボ火山の噴火の影響で、ひじょうに暗い皆既月食となった。 この時の写真撮影データは、食中心での月面の明るさは通常の皆既月食の5から10%ほどしかないことを示していた。
 それでは今回の月食ではこの火山噴火による影響は見られるであろうか?  答えはNOだ。 東京都立大学工学部による成層圏大気の汚れぐあいの経年変化調査によれば、現在の汚れぐあいは当時の5%にも満たず、成層圏の汚れぐあいはすっかり基底状態に戻っているという。 したがって、今後このまま推移するならば、火山噴火の影響で暗くなることはほぼないと言いきってよいであろう。
 ちなみに今年の有珠山の火山活動は月食の暗さに影響するほどの規模ではなく、噴煙も成層圏に届いていないので、まったく関係ないものと思われる。

●皆既月食の食分の深さ

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 左上の写真を見ると、右下が明るく左上は暗いことがわかる。 この輝度差は地球の本影中の月の位置によるものであり、月が地球本影の中心に近いほど暗く、周辺ほど明るくなる。 皆既月食をポジフィルムで撮影すると、月面の片側は明るく白く飛んでしまっているのに対し、もう一方はまっ暗でなにも写らないことがままある。 これは、ポジフィルムの明暗差の表現範囲(ラチチュード)を越える輝度差が皆既中の月面にあることを示している。 ポジフィルムのラチチュードは、おおよそ絞り4段分なので、皆既中の月面の輝度差は4段分以上、つまり食中心の月面の明るさは、皆既の始まりの10分の1以下の明るさと考えられる。

 皆既月食が起きるときの大気の状態、食分の深さなどによって、皆既中の月面の明るさは月食ごとに異なる。 上の写真は、月面が明るかったとき(左)と暗かったとき(右)の比較画像だ。

 下図は今回の皆既月食における地球の影と月の経路をあらわしたものだ。 月が本影のほとんど中心部を通過していくようすが良く分かるだろう。 この図からも今回の皆既月食がかなり暗めになることが推察できよう。

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●色と明るさの変化を楽しもう

 以上を総合した結果、今回の皆既月食で予測されることは、まず皆既の始まりと終わりの月面はひじょうに明るい。 ダンジョンスケール4のオレンジ色の月面が見られることだろう。 また、この時の月面の輝度差は大きく、食中心側から赤、オレンジ、黄色という鮮やかな色の変化が見られるかもしれない。 また、今回は地球の本影のほぼ中心を月が通るので食中心では暗くなり、ダンジョンスケール2から3、暗赤色からレンガ色の月面が見られると予想される。
 このように今回の月食は食分が深く、皆既中の色と明るさの変化が大きいことが特徴だ。こうした点に注目しながら長時間の月食を楽しんでみたい。


ダンジョンスケール
0 きわめて暗い。肉眼でほとんど見えない。
1 暗い。灰色・褐色。表面模様の識別が困難。
2 暗赤色・錆色。本影付近かなり暗い。
3 レンガ色。本影縁は明灰色・黄色。
4 明るい。赤銅色・オレンジ色。本影・半影の境界域が青みがかる。

皆既中の月面の明るさの指標であり、皆既中の色と明るさを肉眼で見て判定する。1993年の皆既月食はきわめて暗く1.0〜1.3程度と見積もられた。

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