ディープ・インパクト補完計画
メサイア号分析報告?

天文食品研究家 上原隆彰

メサイア号とは?

メサイア号とは、彗星の地球衝突を避けるために建造された有人宇宙船である。彗星に人間を降ろし、爆弾を仕掛けて破壊するという任務のためである。衝突が確実になってから計画が実行に移されたため、宇宙船はできるだけ早く建造されねばならない。そのために、ロシアとアメリカの“すでにある技術”を流用して作られた。
具体的には、乗員室部分はアメリカのスペースシャトルを用い、メインロケットはロシアの“核ロケット”で、補助ロケットとして、ロシアのエネルギアロケットのブースターが6基用いられている。また、シャトルの固体ロケットブースターも取り付けられているという、史上最大の寄せ集め宇宙船である。

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エネルギアのブースター

エネルギアとは、旧ソ連時代に開発されたHLLV(ヘヴィ・リフト・ランチ・ヴィークル)で、1987年5月15日に初打ち上げが行なわれ、1988年11月15日にはブラン(旧ソ連版のスペースシャトル)を打ち上げた。メインロケットには、スペースシャトルや日本のH−IIと同様な2段燃焼サイクルの推力可変型の液体水素/液体酸素ロケットエンジンRD−0120が4基備えられている。
エネルギアは、ブースターを2本から8本まで追加できる設計になっており、その数に応じて低軌道に65トン〜200トンのペイロードを打ち上げることが可能である。この数字からもわかるとおり、アポロ宇宙船を打ち上げたサターンVロケット(低軌道に約100トン)を抜いて、世界最大のペイロード打ち上げ能力を持つHLLVになるはずだった。しかし、ミールIIのモジュールを打ち上げる予定もあったエネルギア/ブラン計画は、旧ソ連の崩壊とともに放棄されてしまった(ミールIIは国際宇宙ステーションへの参加という形に変更された)。
エネルギアのブースターは、それ単独でゼニットロケット(の第1段)としても用いられている。エンジンは液体酸素/ケロシン(灯油)を推進剤とする2段燃焼サイクルのRD−170で、これは液酸/ケロシンを用いるロケットエンジンとしては世界最高の性能を誇るものである。液酸/ケロシンの高性能ロケットエンジンとしては、サターンVに用いられたF−1が有名だが、それに比べ、燃焼圧力が3倍の250気圧、ターボポンプ出力は5.5倍の29万4400馬力、ポンプの吐出圧力は6.5倍の845気圧にも達するという。
エネルギアのブースターにはそのRD−170が4基用いられており(というより、4基がたばねて用いられている。だから4基でひとつのエンジンとして考えるべきだろう。そう考えると推力も世界最高となる)、それがメサイア号には6本備えられている。しかしメサイア号の飛行のようすをみると、ブースターは数度の再点火をしていることと、噴射炎が1つしかみられないことから、エンジンは換装されていると思われる。
再点火が可能なロケットエンジンとしては、サターンVの2段・3段用エンジンに使われたJ−2や、日本のH−IIの2段目に用いられているLE−5などがあるが、これらは液酸/液水(液体水素)を推進剤とするものである。液水は超低温であり、タンク周囲の空気を液化させてしまうため、タンク構造(断熱構造)が根本的に異なる(とはいえ、真空の軌道上で組み立てて発進するものであれば、それは問題にならないかもしれないが)。タンクまで改造をしてメサイア号のために使うとは思われない。つまり、そこまでするのであれば、新たな(他の)ロケットを建造したほうが得策だからである。
考えられるのは、推進剤を四酸化二窒素/非対象ジメチルヒドラジンに変更することである。これらの液体推進剤は接触するだけで燃焼し、しかもケロシンと同じく常温保存が可能である。ヒドラジン系燃料を使用するロケットエンジンとしては、中国の長征ロケット用のエンジン、ヨーロッパのアリアンIV用のバイキングがある。しかし、ロシア製であるということを考えると、D型(プロトン)用かF型(ツィクロン)用のエンジンが用いられている可能性が高い。ブースター1本につき、それらのエンジンを1基備えるということである(アメリカのタイタン用エンジンもヒドラジン系燃料を使用するので、ブースターの改造がアメリカで行なわれたとすれば、その可能性もなくはない)。
それらのエンジンが、再着火が可能かどうかは不明である。しかし、多くのロケットや人工衛星・探査機が、それらを推進剤とするスラスター(姿勢制御用小型ロケット)や軌道変更用エンジンを採用している(これらは何度も再着火ができないと意味がない)ことを考えると、メサイア号に備えられたブースターには、それらのエンジンの改造バージョンが用いられているのかもしれない。
先のタンクの問題もあり、わざわざ新しくエネルギアのブースターを作る(しかもエンジンを変更して)とは思われないので、これは保存されていたエネルギアロケットから取り外して急遽製作されたものであることが想像される。経済的に苦しいロシアの精一杯の努力なのであろう。
なお、エネルギアのブースターには回収のためのパラシュートが収納されているが、さすがにこれは取り除かれたであろう。

メインロケット

メサイア号のメインロケットはロシアが開発した“核ロケット”であるらしい。核といっても、核分裂と核融合がある。現時点でもっとも現実性のあるものは、核分裂の原子炉を用いた固体炉心ロケットで、これは推進剤(水素)を高温の炉心に通すことによって膨脹させ、後方に噴射するものである(実際、1950年代後半からしばらくの間、アメリカで実験が行なわれている)。おおまかな理論計算によると、通常の化学ロケットの噴射速度が秒速4キロメートル程度であるのに対し、固体炉心ロケットでは秒速10キロメートルの噴射速度が得られ、推進システムとしてはたいへん効率がいいということになる。原子力(核分裂)ロケットとしては、他にプラズマ炉心ロケットやコロイド炉心ロケットなどという種類があるが、いずれも理論研究だけしか行なわれていない。
しかし、メサイア号の後部を見ると、大きな楕円形の反動デッシュ(皿)のようなものが設けられている。これは、メインロケットの推進システムが核分裂爆弾、または核融合爆弾を連続して爆発させ、その反動を受けて推進するパルスロケットであることを想像させる。だが、その噴射のようすをみる限りではパルスロケットとは思われないし、現代の技術ではまだまだ製作することは不可能なはずである。また、デッシュの反射率も悪い(サビているようにさえ見える)ようであるし、口径も小さい。これでは、後部で核爆発(核分裂だろうが核融合だろうが)をおこしたとたんに、メサイア号(とくにデッシュからはみ出しているブースター部分)は蒸発してしまうであろう。
つまり、反動デッシュに見えるものは、ただそういった構造になっているだけで、メサイア号のメインロケットは固体炉心ロケットであるに違いない。原子力発電には減速剤に水を用いる軽水炉を使っている西側に対し、旧東側では、減速剤に黒鉛を用いた固体炉心の原子炉(炭素チャンネル方式)が多く用いられていた(あの、チェルノブイリもそうであった)ことからも、それはなんとなく納得がいく。もしかしたら、古い原子力発電所から炉心を流用して、無理やり作った可能性もある。これもお金のないロシアならではの流儀といえなくもない。 メインロケットの上部、つまりメサイア号頭部とのドッキングポート部分は、サターンVの第2段上部のようにもみえる。だとしたら、これはケネディ宇宙センターに展示されている未使用のサターンVを利用したものであろう。もしかしたら、推進剤タンクもアメリカ製(同じく展示されているサターンVのもの)が使われている可能性もある。

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メサイア号の頭部

メサイア号の乗員室、及び彗星を破壊するための核爆弾等を搭載している頭部はスペースシャトルオービターの頭部を流用したものである。保存されているものを活用できるという点では、ロシアのブランを用いればよさそうであるが、断熱タイルのパターンからもわかる通り、これはシャトルである。ロシアの原子力ロケットとロシアのエネルギアのブースターをコントロールするのであれば、ますますロシアのブランのほうが適していると思われるのだが、そこまでは手がまわらなかったと思われる。
その頭部が分離し、彗星に着陸、乗組員が外に出るところでは、宇宙船の下部のハッチが開く。これはシャトルのペイロードベイのハッチを下に付け替えたものであると想像される。つまり、シャトルの翼部分と後部のエンジン部分を取り除き、ペイロードベイ(の半分ぐらい)を上下逆さまに付け替えたのが、このメサイア号の頭部である。
このために用いられたシャトルはコロンビア号であるかもしれない。なぜなら、コロンビアはシャトルの初号機であり、構造体が不必要に頑丈(=重いということでもある)にできているため、このような改造に耐えると思われるからである。また、違うものに転用するのであれば、古いものを使うのが定石でもある。しかし逆に、このような重要な任務のためには、性能のよい最新型のエンデバー号を惜しげもなく使ってしまうということも考えられなくもないが、詳細は不明である。
彗星着陸のときに用いられる飛び出し式の2基のスラスターには、球形のタンクが1つしかない。これはヒドラジンを触媒を用いて気化させる1液式のスラスターであることを示している。だが、それにしては噴射時間が長いので、船内のどこかに補助タンクが設けられているのであろう。
この分離したメサイア号頭部の主推進ロケットに関しては不明である。しかし「新たな開発はしない」という大原則を考えると、シャトル後部の主エンジン(SSME)のわきに設けられている、軌道変更用エンジン(OMS)を流用したものである可能性が高い。OMSは四酸化二窒素/モノメチルヒドラジンを推進剤とするロケットで、100回の再使用と500回の再着火が可能な設計となっている。推進剤は、乗員室後部の2本のタンクに収められていると考えられる。

固体ロケットブースター

もっとも用途が不明なのは、メサイア号の両脇に設けられた固体ロケットブースターである。ロケット後部の噴射口は先の反動デッシュでふさがれており、実際、それが噴射するシーンもない。もちろん、噴射したところで「点火したが最後、燃え尽きるまで消せない」固体ロケットである。そういったコントローラブルでないロケットを宇宙船の推進システムに採用するとは思えないし、地上からの打ち上げに使用した残りだとしても、からっぽの外殻をいつまでもかかえている理由はない。もちろん、燃料が入っているにせよ、噴射口がふさがれているのであれば利用価値はない。
ということで、これはおそらく使用済みのシャトルの固体ロケットブースター(SRB)の外殻を利用し、推進剤タンクとしているに違いない。それは、ブースター後部が、なんらかの改造を受けているように見えることからも推測できる。
メサイア号の本体(メインロケット)の周囲には、小さいタンクがいくつも設けられている。これは原子力ロケットの推進剤の補助タンクであろうことが想像できる。すると、このSRBの内部には、エネルギアのブースターのための推進剤タンクが設けられていると考えるのが妥当である。
さらにその形状であるが、これは一見ヨーロッパのアリアンV用の固体ロケットブースターMPSであるように見える。しかし、メサイア号はあくまでもロシアとアメリカによって建造されたということを考えると、SRBのノーズコーンを換装しただけのようである。つまり単なるデザイン上の処理であるということになるが、どんな危機におちいってもジョークを忘れないアメリカ人らしいといえなくもない(SRBのノーズコーン内にはパラシュートが収納されているが、それは不要であるため、形の違うものにしてもさしつかえはない)。
さらに言えば、エネルギアのブースターの直径は4メートルである。そしてSRBの直径は3.7メートル、MPSは3メートルである。メサイア号を見ると、その固体ロケットブースターの直径はエネルギアのブースターとほぼ同じか、見ようによってはかえって太く見えるぐらいである。これはつまりMPSではなくSRBが使われているということを示している。

どうやって作ったか?

ざっと見て、だいたい100メートル前後(史上最大の宇宙船ということであるらしいが、そうなるとアポロ/サターンVよりも大きいと思われる。つまり110メートル以上あることになるが、宇宙船という言葉を拡大解釈すれば、国際宇宙ステーションの118メートルよりも大きいということになる)とみられるメサイア号の構造をみると、ブースター類はともかく、本体はとても地上からの打ち上げには耐えられそうもない。全備重量(推進剤込み)4000トンを越えると思われるロケットが、そうやすやすと地上を離れるとも思えない(離れたとしても、軌道には達しない)。それにメインロケットを地上で噴射させるとなると、放射能汚染の問題が出てくる。そのため、軌道上で秘密裡に建造されたと考えなくてはならない。そして、各パーツはバラバラの状態で、シャトルによって打ち上げられたと考えるのが順当である。
だが、いくらなんでもシャトルだけで打ち上げるのは不可能である(それに、危険な燃料の打ち上げを有人のシャトルで打ち上げるとは思えない)。ということは、多数の使い捨てロケットを用いて打ち上げた可能性が高い。おそらく、もっとも活躍したのはアメリカのデルタIIとロシアのA型であろう(いずれも打ち上げまでの準備期間が短いという点で優れている)。とくにロシアのA型はプレセーツク射場とチュラタム射場(=バイコヌール宇宙基地。ただしロシア領内ではなくカザフスタン領内)の2ヵ所から打ち上げることが可能である。アメリカもケープカナベラルとバンデンバーグの2ヵ所から打ち上げることができるが、打ち上げ方向(方角)が異なる。
1年内外で建造するということは、地上でパーツを製作し、それができたら次々と打ち上げなくてはならない。製作、打ち上げ、組み立てを並行して行なうにしても、おそらくひと月に10回以上のペースで打ち上げをしなくては間に合わないであろう。こんなに異常なペースでロケット打ち上げが行なわれるのを、メディアがほうっておくはずがない。また、製作にたずさわる人員も大量に軌道上に運ばなくてはならない。いくらその計画(軌道やペイロードの中身)が秘密にされていたとしても、ロケットの打ち上げそのものは隠すことは不可能である。
これはつまり、メディアの上層部やロケットメーカーのスタッフには政治的圧力がかかっていたこと、そして箝口令に従わないNASAウオッチャー等の個人のマニアは、捕らえられていたり消されていたことを示している。そうしないと、情報は必ず漏れる。

結論

こういった事態におちいったときには、ロケットマニアは生命が危ない。



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