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小惑星の衝突シミュレーション


【1998年6月18日 国立天文台天文ニュース(182)】

 小惑星に大きな隕石が衝突したときに起きる現象、たとえばクレーターができるとか、破砕するとかといったことについては、ごく大略の推定はできるものの、細かいことについてはよくわかっていませんでした。 たとえ計算を試みるにしても、小惑星の形がわからないため、球体と仮定せざるを得ないといったあいまいさが残ってしまうからです。

 しかし、最近では小惑星を近接撮影した写真やレーダー画像が得られるようになり、いくつもの小惑星の形が球とは大きく違っていることが明らかになりました。 一方、コンピュータによる計算技術の進歩によって、具体的な形のわかっている小惑星に隕石が高速で衝突した場合の現象をかなり詳細にシミュレーションできるようになってきました。

 カリフォルニア大学のアスファウグ(Asphaug,E.)らは、この種のシミュレーションの衝突目標天体に、レーダー観測によって3次元画像の得られた地球接近小惑星(4769)カスタリアを選びました。 これはもっとも長いところが1.6キロメートルある、ピーナツ形をした小惑星です。 そして、この形の天体に半径8メートルの玄武岩の球(5800トン)を秒速5キロメートルで衝突させたときの現象を調べたのです。

 この衝突のエネルギーは、ほぼ広島型原爆の爆発エネルギーに相当します。 目標のカスタリアについては、

  1. 全体が一体の岩石である(単一体)、
  2. 二つに分離していて境界面に細かい石が挟まっている(接触連星)、
  3. たくさんの大きい岩石が重力でくっついてひとつにまとまり、そこに50パーセントの空隙がある(破砕集積体)、
という三種の場合を想定しシミュレーションが行われました。 その結果、
●単一体
衝突点の500メートル範囲が大きく破砕、全体が大きく二つに割れ、たくさんの小破片ができ、全質量の10パーセントほどが飛び去る。
●接触連星
衝突された一方はほぼ完全に破砕、他方はほとんどこわれない。やはり全質量の10パーセントほどが飛び去る。
●破砕集積体
衝突点周辺にはクレーターができ、その内部の物質はほとんどすべて飛び去る。その他の部分は、空隙が衝撃を吸収し、大きな破砕は生じない。
といった状態となることが分かりました。 このように、衝突される天体の内部構造によって、衝突結果が大きく異なることがわかります。

 最近の研究では、破砕集積体の小惑星がたくさん存在するらしいといわれています。 昨年6月に探査機ニア(NEAR)が接近観測をした小惑星(253)マチルドの平均密度がわずかに1.3グラム/立方センチメートルしかなかったことも、破砕集積体型の小惑星が存在することを裏付けています。

 評判の映画「ディープ・インパクト」や「アルマゲドン」では、彗星や小惑星が地球に衝突することをテーマにしています。 このような衝突が現実になる可能性を否定することはできません。 地球と衝突するコースにある天体が発見されたとき、たとえば核兵器を使ってその天体を破壊したり、コースをそらせたりすることも考えられます。 このシミュレーションは、どのような手段であれ、その作用を効果的にするためには、目標天体の内部構造をよく知ることが不可欠であることを示しています。

参照 Asphaug,E. et al., Nature 393,p.437-440(1998).


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