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ステファンの五つ子に大規模な超新星残がい

国立天文台・天文ニュース (163)


【1998年3月19日 国立天文台天文ニュース

 「ステファンの五つ子(Stephan's Quintet)」は、狭い範囲に銀河が密集しているコンパクト銀河群のひとつです。 「ペガスス座」に5個の銀河が集まっているのを1877年にフランスの天文学者エドゥアール・ステファン(Édouard Stephan)が発見したことから、このように呼ばれます。 構成銀河は NGC7317,NGC7318A,NGC7318B,NGC7319,NGC7320 の5つです。 NGC7318B の腕のところは、電波連続波やX線の強度が特に大きいことが知られていますが、その理由はわかっていませんでした。

 東北大学の大山陽一(おおやまよういち)、西浦慎悟(にしうらしんご)らのグループは、このステファンの五つ子内に、100万個におよぶ大規模な超新星爆発の痕跡を発見しました。これは、いままでに知られていなかった特異な現象です。

 東北大学のグループは1996年8月15日、18日に、国立天文台岡山天体物理観測所の188センチ望遠鏡によるスペクトル観測で、五つ子のひとつ NGC7318B の南側の腕の2個所で、非常に幅の広い電離水素ガスの輝線をとらえました。 輝線の幅が広いのはそのガスが高速で膨張していることによるドップラー偏移のためで、膨張速度は毎秒900キロメートルにも達します。 これは特異な状況です。それだけでなく、さらに電離硫黄の強い輝線スペクトルも得られました。 電離硫黄は超新星残がいでしばしば観測されますから、この場所では超新星爆発があったと考えるのが自然です。 また、これまで理由がよくわかっていなかった強い電波やX線が出ていることも、それで説明がつきます。

 この状況をさらに確認するため、東北大学のグループは、9月14日に、東大理学部、木曽観測所の105センチ、シュミット望遠鏡で、その付近の電離水素の分布を調べました。 その結果、ステファンの五つ子には、銀河の大きさにも相当する大きい電離水素ガスの領域があり、そこに超新星爆発によって生じた泡状構造のあることがわかったのです。 これによって、現実に超新星爆発があったことがほぼ明らかになりました。

 では、どのくらいの数の超新星爆発があったのでしょうか。 電波、X線の強度などから概算した結果、なんと100万個の超新星爆発に相当するエネルギーが出ていることがわかったのです。 東北大グループは、これを「宇宙最強の超新星爆発の痕跡」と考えています。

 少し想像をたくましくして考えた状況はつぎのようなものです。 NGC7318B は単なる渦巻銀河ではなく、過去に二つの銀河が合体してできた銀河で、合体の際の潮汐作用によって NGC7318B の腕が生じ、そこに巨大な電離水素の領域が形成されました。 そこに10万から100万個もの大質量の恒星が誕生し、それらがほぼ同時期に超新星爆発を起こして現在の状態になったのです。 この領域の半径3.2キロパーセクと、電離水素輝線の速度幅の毎秒900キロメートルから考えると、それらの超新星爆発は、およそ700万年前と見積られるということです。

参照 Ohyama,Y. et al.,The Astrophysical Journal(Letters)492,L25-L28(1998).

東北大学記者会見資料(Mar.15,1998).

1998年3月19日          国立天文台・広報普及室



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