News
X線天文学衛星「あすか」が宇宙X線背景放射の正体を解明


【1998年2月26日】

 1998年2月25日、 文部省宇宙科学研究所(ISAS)のX線天文学衛星「あすか」観測チームは、 長年の謎とされてきた「宇宙X線背景放射」が、 多数の遠方活動銀河核から発せられた放射に起源を持つものであるとの研究結果を発表し、 『nature』(2月26日号)に同論文が掲載された。

 X線背景放射は、1960年代初頭にX線天文学の幕開けとともに発見され、 天球のどの方向からも一様な強度でやってくることから、 宇宙論的な起源を持つと考えられていたが、その正体は長らく不明であった。

 短い波長の(高エネルギーの)X線に対して、 過去のX線天文学衛星の100 倍以上の観測感度を持つ「あすか」は、 今回、「かみのけ座」から「りょうけん座」にかけての7平方度にわたる広い領域を、のべ20日間にわたって観測し、 この宇宙X線背景放射の正体を解き明かすことを試みた。

 その結果、線源として分解できる多くの暗いX線天体の検出に成功した(画像)。 これらの天体の多くは、おそらくは、 数十〜百億光年遠方にある活動銀河核と考えられ、 銀河の中心にある隠された大質量のブラックホールに流れ込むガスから、 高エネルギーの放射が発せられ、 これがX線として見えていると観測チームは推定している。 また、今回観測された短波長のX線源の強度より算定される放射量を全天に当てはめると、 宇宙X線背景放射の全体の「明るさ」をうまく説明できるとしている。

 従来、宇宙X線背景放射に関しては、 宇宙全体に広がる高温プラズマ起源説なども提唱されていたが、 今回の発見によって、多数の活動銀河核に起源を持つことが確実になり、 観測宇宙論分野の謎のひとつが解明されたといってよいだろう。

 今後は、光の観測などによってこれらの銀河の性質をより詳しく調べることで、 およそ100 億年前、その大きさが現在の半分から数分の1だった初期の宇宙に、 なぜこれほど多くの活動的な銀河が存在したのか、 またその後どのように銀河は進化してきたのか、 といった銀河形成論の研究に大きな影響を及ぼすことは間違いない。

 井上一教授は「『あすか』はこれまでの5年間の観測で、 さまざまな観測成果を挙げていますが、当ミッションを始めた最大の動機が、 この宇宙X線背景放射の解明にあったので感慨もひとしおですね」と語っている。

 X線天文学部門は日本が世界をリードしており、 2000年には「あすか」の後継機として大型X線天文学衛星「アストロE」の打ち上げも予定されている。

「あすか」によるX線画像

X線天文学衛星「あすか」による広域サーベイ観測で得られたX線画像。 銀河系内放射の影響の少ない銀極方向、「かみのけ座」から「りょうけん座」にかけての天域7平方度に対して、 80万秒の積分撮像が実施された。画像の色はX線強度を示し、 青→赤→黄へと進むほど強度が大きい。100 を越えるX線源が、 まんべんなく分布しているのがわかる。 これらの中には、従来あまり観測されなかった、 短い波長のX線を多く放射する天体が含まれており、 「あすか」の今回の撮像によって初めてその姿が浮かび上がった。


 AstroArts Copyright(C) AstroArts Inc. All rights reserved.