アストロアーツが独断と偏見で選ぶ1997年・天文10大ニュースをまとめてみよう。
これを外しては1997年の天文界は語れません。1995年7月に木星以遠で10等級という明 るさで発見され"超巨大彗星"との期待が高かったヘール・ボップ彗星が期待通り大彗星に。
96年夏ごろからすでに肉眼彗星となっていたが、97年2月には都市部でも肉眼で視認で きる明るさに。3月9日にはシベリアで皆既日食中に確認され、3月22日地球最接近、4月1 日の太陽最接近前後はマイナス1等級で輝いた。太陽からも地球からも約1天文単位と遠方にありながらもこの明るさ。
幾筋にも別れて踊るイオンテイル、3月中旬にはシンクロニックバンドも出現した極太 のダストテイル、彗星核から吹き出す明瞭なジェットなど多くの天文ファンが驚愕する世紀の大彗星となった。
TV・新聞でも連日報道され、天文ファンは眠れぬ毎日を過ごした。連日の遠征とフィルム消費量増大でヘール・ボップ彗星貧乏も続出。96年の百武彗星とともに、20世紀末の天文大イベントとして記憶に永く残る彗星となった。
アメリカの火星探査機マーズパスファインダーが、アメリカ独立記念日の7月4日に火星到達、バイキング探査機以来21年ぶりの火星探査となった。
ソジャーナと名づけられた探査車が、火星面を自走して岩石に接近観測、多数の分析サンプルをもたらすとともに、マーズパスファインダーからのパノラマ写真の分析によって、着陸地点がかつて大量の水が流れた場所だと推定される証拠が多数確認されるなど、火星に対する知見が飛躍的に増大。マーズパスファインダーの探査計画は当初1週間の設計寿命だったが、予定を大幅に上回る3ヶ月にもわたって探査を続けた。
マーズパスファインダーは予算切迫のNASAにあって、安く早く効率的な探査をめざし、エアバック式のランディング、遠隔操作半自走式ローバーなど革新的なアイデアに満ちたミッションであった。
天文少年だったという日本人4人目の宇宙飛行士・土井隆雄さん(43歳)が、スペース シャトルコロンビアでアメリカ東部時間11月19日午後2時46分、宇宙へと旅立った。シャトルでは、日本人として初めての船外活動を2度も行なうなどミッションスペシャリストとして活躍。12月5日、16日間の宇宙滞在を終え、無事帰還した。
土井さんは現役天文ファンでもあり「宇宙では星が瞬かない」とか「眼下に遠く輝いている星空を見るのはほんとうに不思議な感じです」と天文ファンならではの視点で地上にレポートを送ってくれた。
今世紀末に期待される「しし座流星雨」。母彗星のテンペル・タットル彗星の回帰による流星出現のピークと推測されている98〜99年を目前にして、その動向を探る上でも注目された。当夜は満月近い大きな月があったにもかかわらず、明るい流星がいくつも見られ、確実に大出現に向けて活動が活発化していた。
しし座流星群は、約33年周期で大出現を見せている。前回の1966年、アメリカで見られた1時間あたり数千〜1万個という猛烈な出現から33年目にあたる98〜99年に、どんな活動を見せるのだろう。幸い98年は日本で条件が良く、今から観測体制の整備が進んでいる。
97年の出現より、98年への期待を込めて上位にランクされた。
3年に一度開かれる天文学のオリンピック、IAU=国際天文学連合の第23回総会が京都で開かれた。8月17日〜30日の約2週間、平行して小惑星会議や彗星会議も開催され、世界の天文学者と日本のアマチュア観測者の交流も活発に行なわれた。
日本はIAU設立時からの加盟国であったが、今回が初の開催で、アジアではインドに次 いで2度目。この総会のために企画された『日本天文学会の成果・IAU97KYOTO』CD-ROMは 、日本の天文学の歴史・成果・天文施設・アマチュアの活躍を世界にアピールした。
10月16日の未明に、満月による土星食が全国各地で見られた。西空の低空での現象で、大気のゆらぎや雲に邪魔された地方も多かったが、快晴に恵まれた中国〜九州各地では、すばらしい土星食のようすが観測された。
土星食は23年ぶりの現象で、全国的に見られるものとしては30年ぶり。なお、次に日本で見られる土星食は2001年10月7日となる。
2月12日午後1時50分、鹿児島県の内之浦宇宙空間観測所から、宇宙科学研究所のM-Vロ ケット1号機が打ち上げられた。搭載されたMuses-B衛星は、無事に長楕円軌道に載り、「はるか」と命名された。
「はるか」は今後、VSOP計画と呼ばれる世界初の超巨大電波望遠鏡観測計画の中心となる衛星。VSOP計画は、地球上に設置された大型パラボラアンテナと、衛星軌道上の「はるか」が連携して、口径3万kmにも及ぶ巨大な電波望遠鏡システムを構成するもの。すでに50億光年遠くのクェーサーや、銀河中心のブラックホールの詳細を捉えるなどの成果をあげている。
1992QB1の発見年以来、冥王星の外側を回る小天体が続々と発見されているが、その中 の1996TL66の遠地点は約130天文単位と計算され、カイパーベルトとオールト雲の間をつ なぐ領域にまでおよんでいると考えられる。97年9月には、パロマー山天文台で天王星の新衛星が2個発見されて、計17個となった。また、木星を周回中の探査機「ガリレオ」はエウロパの表面に、いったん溶融して再氷結したと思われる氷表面を発見。今もその内部では液体状の水があるのではと考えられているなど、まだまだ太陽系内も新たな発見に満ちている。
銀河系内、銀河宇宙空間ではHST=ハッブル宇宙望遠鏡が次々と驚異的な発見を続けて いる。HSTは97年2月のSTS-82ミッションによって第2次補修が行なわれ、さらに強力にな った。
アマチュアの天体捜索にも冷却CCDカメラが大活躍。自動掃天、半自動掃天導入などコ ンピュータ制御望遠鏡との組み合わせで1997年中(12月26日現在)には国内で計7個の発 見を数えた。中でも年間5個を発見した富山県の青木昌勝さんの活躍が目を引く。青木さ んの累計9個は超新星発見数日本レコード。1997年中の超新星発見リストは以下のとおり 。
青木昌勝さん5個、SN1997X、SN1997dd、SN1997dq、SN1997eg、SN1997ei(累計9個)
串田麗樹さん1個、SN1997E(累計6個)
佐野康男さん1個、SN1997ef(初発見)
なお、今年の新天体発見としては、他に小林隆男さんがCCD掃天で発見した新彗星 P/1997B1、宇都宮章吾さんが15センチ双眼鏡によって眼視発見した新彗星C/1997T1がある。
最後はちと内輪ネタ。月刊の天文雑誌スカイウオッチャー編集部が、アストロアーツとジョイント。雑誌・書籍・CD-ROM出版・天文ソフト・インターネットホームページと、あらゆるメディアを使って天文情報を発信する強力な体制が整う。この体制で、1997年中には以下のプロダクツを発表。
もちろん1998年もみなさまの天文ライフをより楽しくする企画続出。
・10大ニュースからは漏れたが、97年中の天文現象としては、3月9日の「モンゴル〜シベリア皆既日食」、6年に一度シーズンとなる「木星のガリレオ衛星の相互食」、9月17日の「中秋の名月の皆既月食」、何回かの「アルデバラン食」があった。6位にノミネートされた「土星食」をはじめ、各種バラエティに富む食現象があった年であった。なお、11月7日には、トロヤ群の小惑星(1437番)ディオメデスが ペルセウス座にある7等星を隠す現象が東北〜中部地方で観測され、世界で初めてトロヤ群小惑星の大きさと形がわるという成果も挙がっている。
・最後に97年中の訃報をまとめておこう。7月18日、木星に衝突したシューメーカー・レ ビー第9彗星の発見者の一人として天文界でも知られるユージーン・シューメーカー博士 が、隕石孔の調査のために訪れていたオーストラリアで交通事故死(69歳)。さらに、4月6日に太陽黒点観測を永年継続され国立科学博物館にて天文普及活動に活躍された小山ヒサ子先生が80歳で、9月6日に自作望遠鏡&天体写真の先駆者であったアマチュア天文ファンの大先輩の星野次郎先生が81歳で亡くなっている。合掌。
こうして振り返ってみると1997年もいろいろなことがありました。 1998年もよろしく。そして、98年も刺激に富んだ年でありますように。