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南氷洋に落下した小惑星エルタニン

国立天文台・天文ニュース (146)


【1997年12月 4日 国立天文台・天文ニュース】

 いまから215万年前の第三期鮮新世に、直径1から4キロメートルもある小惑星が、 チリ南端、ホーン岬の南西1500キロメートルの、南氷洋、 ベリングスハウゼン海に落下したと見られます。 この事実は、1995年に、海洋観測船ポーラーシュテルン号がおこなった 探査によって確実なものになりました。

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 アメリカの海洋観測船エルタニン号は、 1964年にその付近で海底物質のコアサンプルを採取しました。 このサンプルにイリジウムや金などの金属が異常な高濃度で含まれていること、 また、隕石の破片と思われる物質があることがわかったことから、 ここに天体が衝突した可能性があることをカリフォルニア大学のカイト (Kyte,Frank T.)らが1981年に初めて指摘しました。 そして、衝突した小惑星を、観測船の名をとって、エルタニンと名付けました。 しかし、この時点では、小惑星衝突を断定するには、 まだいくつもの疑問点がありました。

 この点をはっきりさせるため、1995年に、 ポーラーシュテルン号による探査がおこなわたのです。 ポーラーシュテルン号は、この海域で、 海底から深さ14メートルを越す3本のコアサンプルを採取したほか、 音波探査によって海底堆積物を調査しました。音波探査は、 船から出した音波が海底の地層内で反射して戻ってくる状態を捕らえて 海底堆積物の状況を調査する方法で、 海底下300メートルぐらいまでの地層や断層の様子を知ることができます。

こうした調査の結果、この付近では、数100キロメートルの範囲にわたって 海底が激しくかき乱されていることがわかりました。 またコアサンプルからは、衝突の際に生じた強い流れによって運ばれ、 堆積した大きなブロックなどが最下層にあり、 その上には隕石の破片や短時間海中で懸濁してから堆積した粗い物質が乗り、 もっとも上の層に、懸濁し、数週間かかって堆積したと思われる ごく細かい粒子があるという状況が明らかになりました。 この状態は、6500年前にやはり天体衝突で生じ、 恐竜などの大量絶滅につながったといわれる ユカタン半島のチクシュルーブ・クレーター周辺と、驚くほどよく似ています。 これらの事実から、天体衝突があったのは確実です。 しかし、この南氷洋の海底にクレーターは発見されていません。

 採取された隕石の破片から衝突天体はエイコンドライトの小惑星と推定され、 海底がかき乱されている広さや、破砕が玄武岩質の地殻を突き抜けていない状況から、 衝突した小惑星の直径が1キロメートル以上、4キロメートル以下と見積もられ、 さらに破壊された堆積物の年代から、 衝突が約215万年前とに起こったものと計算されたのです。

 海洋にこれだけの衝突があったとすれば、 猛烈な津波が生じたことは間違いありません。 その痕跡は、いまでも何かの形で残されている可能性があります。 ペルーのピスコ付近の海岸に海洋と地上の哺乳類の骨格が混じりあって 含まれている地層があり、 どうしてそのような地層ができたのか説明ができませんでしたが、 それをこの衝突による津波で説明できると考える人もいるようです。

 これまでに、地上には約140個の天体衝突クレーターが発見され、 その数は年々増加しています。地球表面の70パーセントを占める海には、 おそらくそれ以上の天体衝突があったはずです。 海への衝突が確認されたのは今回が初めてですが、 この方面の研究が進めば、 今後、海底の衝突痕の発見はさらに増えると思われます。

参照 Gersonde,R. et al., Nature 390,p.357-363(1997).    Smit,J., Nature 390,p.340-341(1997).    Kyte,Frank T. et al., Nature 292,p.417-420(1981)

1997年12月4日          国立天文台・広報普及室



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