■皆既日食の醍醐味■

天文ファンとして、一度は見ておきたい皆既日食。その皆既日食の撮影方法を紹介しします。

まずは、皆既日食の見どころを。

太陽が徐々にかけていく部分食は、見たことのある方も多いでしょう。食分が9割を超えるころには、あたりは薄暗くなりはじめ、気温も下がってきます。

皆既日食の5分ほど前から西の空が暗くなりはじめ、徐々に夕闇が空を覆い始めます。皆既日食直前になると、あたりは夕方のように暗くなり、太陽は肉眼でも細い月のように見えます。太陽が覆いつくされる直前には、月の山谷の隙間から漏れる太陽の光が内部コロナと相まって、ダイヤモンドリングのように見えます。

 

画像処理されたコロナ

観測風景

ダイヤモンドリングが終わると、いよいよコロナの全貌が見えてきます。皆既日食のクライマックスです。

コロナの形は太陽の活動周期と関連していて、極小期には東西に広がった形に、極大期には均等に広がった形になります。

極大期と極小期のコロナ

皆既中のスナップ

数秒から数分のショーはあっという間に感じられるでしょう。その後、太陽は徐々に大きさを取り戻し、普段の世界へと戻っていきます。

■皆既日食の撮影■

皆既日食は、太陽だけでなく空全体の変化を味わえることもあって、これを記録に残すには様々な方法があります。

ムービー撮影

日食は変化の激しい天文現象です。ムービーで撮影することでその変化の様子を記録することができます。

本影錐が近づき、空が暗くなる様子はなるべく広角で撮影します。最近は全天周の動画を手軽に撮影できるリコーイメージングの「THETA」のような全天カメラもあり、空全体の変化を簡単に記録できるようになりました。空の明るさの変化や周囲の人の声なども記録できるので、後から見てもライブ感満点です。

望遠であればダイヤモンドリングからコロナが見えてくるまでの変化を記録することができます。レンズが交換できないデジタルカメラやビデオカメラなどであれば、光学ズームが20倍以上のものがお勧めです。最近はコンパクトデジカメやスマートフォンでも4K動画が撮影できるので、動画はできるだけ高解像度で撮影しましょう。

また、動画は皆既日食の前に撮影を開始しておけば、皆既中は操作する必要がないため、肉眼での鑑賞に集中することができます。

撮影機材

ムービー撮影のポイント

動画を撮影する場合は、カメラを三脚にしっかりと固定しておきます。露出はオートでカメラ任せにします。撮影は、皆既日食の5分くらい前から始め、皆既終了後も5分ほど撮影しておくと、空の明るさの変化の全経過を記録することができます。

三脚に固定したカメラ

動画でなければ記録できない「シャドウバンド」

第2接触、第3接触の前後数秒間(ダイヤモンドリングのころ)に、地面の上をさざ波が動いていくような現象を見ることができます。これは、太陽の光がほぼ点光源になり、大気の揺らぎがそのまま地面に投影されるために見えるものです。さざ波が動いていく方向も、第2接触と第3接触の位置角によって変わります。

この様子は動画でなければわかりにくいものです。広角で動画を撮影する場合は、地面も入れておくことでシャドウバンドの様子も撮影できます。

 

 

全景写真

スマホやコンパクトデジカメで皆既中の全景を撮影しておくと、皆既日食全体の雰囲気を記録することができます。もちろんデジタル一眼カメラに広角レンズを装着し、三脚に載せてインターバル撮影しても良いでしょう。

皆既中の撮影には、減光フィルターは不要です。構図は、日食と地上の様子が入るように決めます。露出を調整している時間は無いのでオートにします。ピントが合わないことがありますので、事前に無限遠や遠景に設定して、オートフォーカスのピント調整で時間を取られないようにするのがコツです。露出とピントは皆既日食が始まる前に設定しておきましょう。

全景写真

 

デジタル一眼カメラで拡大撮影

コロナの全景を詳細に記録するには、望遠鏡や望遠レンズにカメラを取り付けて拡大撮影をします。APSカメラで300から500mm、フルサイズなら500から700mmくらいの焦点距離が最適です。

皆既のコロナと大きさと画角、APSとフルサイズ

望遠で撮影するため、太陽の動きを自動的に追尾してくれるポータブル赤道儀が必要になります。日食ツアーでは持って行ける機材の重量に制限があるため、架台の堅牢性と鏡筒、レンズ、カメラの重量のバランスが重要になります。失敗をさけるためには、必ず事前に組み立てて撮影のテストをしておきます。

ポータブル赤道儀

ミラーレスカメラがおすすめ

一眼レフカメラでは、撮影時にミラーが跳ね上がるためにミラーショックが起こります。日食の撮影で使う赤道儀はどうしても剛性が低くなるため、1/60前後のシャッタースピードで撮影すると、このミラーショックで像がぶれてしまうことがあります。これを避けるには、撮影前にミラーアップして撮影するか、または構造上ミラーショックが起きないミラーレスカメラで撮影すると良いでしょう。

日食撮影機材の具体例

望遠レンズか、天体望遠鏡か

望遠レンズであれば、レンズのオートフォーカスでピントを合わせることができます。しかし、望遠レンズは天体望遠鏡に比べるとレンズの枚数が多くなるので、ダイヤモンドリングの撮影時にフレア(ゴースト)が出てしまうことがあります。フレアが出るかどうかは、絞りやシャッター速度のような条件で変わるため、実際にテストしてみないとわかりません。黒い紙に穴をあけて、それを通して太陽を撮影してみるなど、事前にテストしておきましょう。

望遠レンズ、望遠鏡

減光フィルター

部分食を撮影するためには、減光フィルターが必要です。太陽光は強烈ですので、約1万分の1にするフィルターが必要になるわけです。減光フィルターには、NDフィルターや太陽専用減光フィルターがあります。

ガラス製NDフィルター

入手しやすく使いやすいのですが、フィルターのありなしでピント位置が変わってしまいます。部分食の後にフィルターを外してダイヤモンドリングやコロナを撮影する時にはピントの再調整が必要です。

太陽専用減光フィルター

とりつけのための工夫が必要ですが、フィルターのありなしでピント位置が変わらないのが特徴です。日食撮影にはこちらがお勧めです。

アストロアーツ・オンラインショップでは、撮影にも使えるシートタイプのフィルタ「アストロソーラーシート」を販売中です。

アストロソーラーシート

映像確認用外部モニタ

カメラのファインダーでは、ピントがあっているかどうかの確認が困難です。とくに部分食中はカメラが太陽の方向を向いているため、ファインダーをのぞく際に太陽光が目に入ることで目が眩みやすくなります。

液晶がティルトできるタイプであれば、映像を拡大できてピントも確認しやすくなりますが、できればデジタルカメラ用の5インチ程の映像確認用外部モニタがあると便利です。ピントを合わせやすいようにエッジ強調モードが搭載されていれば、天体望遠鏡でマニュアルでピントを合わせるときに非常に便利です。

メモリカード

日食は、短い時間にできるだけ多くの画像を記録したいものです。そのため、書き込み速度が速いメモリカードが欲しくなります。撮影計画をしっかり立てて撮影枚数を計算し、必要なメモリサイズで、できるだけ高速なカードを用意すると良いでしょう。

バッテリー

カメラや赤道儀などは、バッテリーが切れると使えません。そのため、バッテリーは必ず予備を用意し、遠征前にフル充電した状態で持っていきましょう。

 

外部モニタ

露出時間

撮影時のシャッター速度、ISO感度は、あらかじめテストをして決めておきます。 ISO感度は、感度を上げてもSN比が悪くなるだけなので、通常の写真を撮る感度で十分です。

一般的には、日食の標準露出は次の表に従います。 まず感度を決め、表を横にたどって使用する望遠鏡やカメラレンズのF値を探します。さらにその横を下にたどると、撮影対象ごとの適正露出の“めやす”がわかります。実際には前後数段、露出を変えて撮影してください。

部分食を撮影するには、減光フィルターをつけて、あらかじめテスト撮影しておきましょう。 なお、最新のカメラを使っても、コロナの階調差が1万倍もあるので、肉眼で見たようなコロナを1枚撮りで撮影することはできません。露出を変えて何枚も撮影し、その後に画像合成する方法が一般的です。

ISO感度 望遠鏡のF値(=カメラレンズの絞りの値)
100 2.8 4 5.6 8 11 16 22 32 44
200 4 5.6 8 11 16 22 32 44 64
400 5.6 8 11 16 22 32 44 64 88
800 8 11 16 22 32 44 64 88 128
1600 11 16 22 32 44 64 88 128 176
撮影場所 露出指数 カメラのシャッタースピード=露出時間(秒)
ベイリーズビーズ 11 - - 1/8000 1/4000 1/2000 1/1000 1/500 1/250 1/125
彩層 10 - 1/8000 1/4000 1/2000 1/1000 1/500 1/250 1/125 1/60
プロミネンス 9 1/8000 1/4000 1/2000 1/1000 1/500 1/250 1/125 1/60 1/30
コロナ(太陽半径x0.1) 7 1/2000 1/1000 1/500 1/250 1/125 1/60 1/30 1/15 1/8
コロナ(太陽半径x0.2) 5 1/500 1/250 1/125 1/60 1/30 1/15 1/8 1/4 1/2
コロナ(太陽半径x0.5) 3 1/125 1/60 1/30 1/15 1/8 1/4 1/2 1 2
コロナ(太陽半径x1.0) 1 1/30 1/15 1/8 1/4 1/2 1 2 4 8
コロナ(太陽半径x2.0) 0 1/15 1/8 1/4 1/2 1 2 4 8 15
コロナ(太陽半径x4.0) -1 1/8 1/4 1/2 1 2 4 8 15 30
コロナ(太陽半径x8.0) -3 1/2 1 2 4 8 15 30 60 120
金環日食と皆既日食を知る/石井馨氏「金環日食2012」より

部分食の撮影ポイント

部分食を撮影するためには、減光フィルターをつけて撮影します。

フィルターをつけて、太陽のエッジ、または黒点が出ていれば黒点でピントを合わせます。望遠レンズであれば、太陽の縁でオートフォーカスでピントを合わせることができます。ピントを合わせたら、オートフォーカスは解除しておきます。

部分食の経過を撮影するには、1分から5分刻みでインターバル撮影します。太陽高度や天候によって適正露出が変わるので、ブラケット撮影で露出を変えながら撮影しておくと、あとから処理がしやすくなります。ブラケット撮影をしておけば、(雲で隠されない限り)どれかが適正露出になるので、後から画像処理の必要もなく、保存は最高画質のJPEGでも十分です。

また、気温やレンズの温度変化でピントがわずかに変わることがあるので、15分から30分おきに撮像画像のピントをチェックしておくと良いでしょう。

ダイヤモンドリングの撮影ポイント

太陽が細くなったところでフィルターを外して、再度ピントを合わせます。この時にファインダーで見てはいけません。液晶モニターでピントを確認するようにします。

ダイヤモンドリングは、第2接触の30秒ほど前から見え始めますが、撮影は10秒前からで十分です。第2接触が始まるまで、なるべく多くの枚数を撮影するため、連射モードで撮影します。撮影枚数をかせぐため、保存は最高画質のJPEGにしておきます。

コロナの撮影ポイント

肉眼でみると、コロナは太陽表面から太陽の大きさの2倍から3倍まで広がって見えています。また、太陽表面からは赤紫色のプロミネンスが見えていることもあります。

しかしカメラで撮影しても、肉眼で見たようには写りません。これはコロナの明るさが内部と外部で1万倍以上も違うことで、カメラのダイナミックレンジをはるかに超えてしまうためです。

そのため、シャッター速度を変えて、プロミネンスから外部コロナまでに露出を合わせて多段階露光で撮影をします。

例えば次のように多段階露光を行います。多段階露光のステップは2EV程度とします。

 

画像

ISO 100、絞り F5.6
シャッター速度 1/250, 1/60, 1/15, 1/4, 1s

枚数が増えるほど画像処理後の画質が良くなるので、この組み合わせで皆既の間でできるだけ多くの撮影を行います。

これらを合成することで、次のような画像に仕上げることができます。

画像処理後

さらに、ステライメージ8の回転アンシャープマスク機能で、コロナの微細構造を再現することもできます。

また、長時間露光した画像を強調処理をすると、月の模様を浮かび上がらせることができます。

月面

自動撮影

これらの撮影を手動で行うと、日食の最中は、カメラの操作にかかりきりになります。それを避けるために、PCによるカメラ制御で自動化することができます。ここでは、エクリプスナビゲータでの自動撮影の手順を紹介します。

エクリプスナビゲータでは、部分食、ダイヤモンドリング、コロナの各撮影パートごとに細かい設定を行い、日食の全過程の撮影を自動化できます。また、事前にテスト撮影ができるので、PCやカメラのバッテリーの消費状態などもチェックできます。

自動撮影を行うことで、カメラの操作にわずらわされることなく、皆既日食を堪能することができます。

エクリプスナビゲータ4

部分食

部分食

1回の撮影毎に複数のシャッター速度を指定し、天候などの変化で適正露出が変わっても大丈夫なように備えることができます。また全自動なので1分おきに撮影を設定しても手間がかかりません。

ダイヤモンドリング

ダイヤモンドリング

多くの枚数を撮影するため、ミラーアップした状態で撮影できるようになっています。

コロナ

コロナ

多段階露光を設定することができます。

最後に

皆既日食を見ることができる機会はごく限られています。もし、機材にトラブルがあった場合は、トラブル対処に追われて皆既日食を満足に見ることができないという事態も考えられます。そんな場合は潔く撮影をあきらめ、自分の目で皆既日食を楽しむことに専念するという選択も考えておきましょう。