約100万歳の若い星の周囲で惑星形成の新証拠

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アルマ望遠鏡の観測データの解析から、100万歳と若い星の周囲のガス円盤に二重の溝が見つかった。すでに知られていた塵の分布に見られる溝と同じ位置に存在しており、ここで惑星形成が起こっているという強い証拠となる結果である。惑星形成には数千万年はかかるとしてきた従来の説を再考する必要があるかもしれない。

【2016年5月26日 アルマ望遠鏡

2014年11月、アルマ望遠鏡は「視力2000」に相当する超高解像度で約450光年彼方のおうし座HL星を観測し、星を取り巻く円盤の塵の分布に複数の溝が存在することを明らかにした(参照:アストロアーツニュース「視力2000!アルマが見た惑星誕生の現場」)。

おうし座HL星の周囲の塵の分布
おうし座HL星の周囲の塵の分布(提供:ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)

この部分には惑星が存在し、惑星の重力で塵が集められて溝ができているのかもしれない。しかし、溝形成のメカニズムとしては、塵粒子が衝突し合体成長したり破壊されたりするという大きさの変化や、ガスが凍りつくことによる塵粒子の生成という、惑星以外の可能性もある。

本当に溝の部分で惑星形成が進んでいるかどうかを明らかにするためには、質量比で塵の100倍も存在するガスの分布を調べることが必要となる。塵の特性の変化に起因するのであれば、ガスの観測では溝が見えないはずだ。

ガスに含まれる分子から放たれる電波は塵から放たれる電波よりも弱く、アルマ望遠鏡の感度をもってしても分布を明らかにすることは簡単ではない。台湾中央研究院天文及天文物理研究所のイェン・シーウェイさんと鹿児島大学の高桑繁久さんたちの研究チームは、塵の円盤を描き出した観測で同時に取得されたHCO+(ホルミルイオン)分子が放つ電波の信号をアーカイブデータから取り出し、新たな解析手法を用いて感度の問題の解決を試みた。

塵の円盤と同様にHCO+も軸対称な分布をしていると仮定し、半径ごとに円盤を区切って円周方向に電波強度を足し合わせることで、半径方向のガスの分布が高い検出感度と解像度で得られた。10天文単位(1天文単位は約1.5億km)という解像度は、星周円盤の分子の観測としてはこれまでで最も高いものだ。そして、ガスの分布にも少なくとも2本の溝(半径はそれぞれ28天文単位と69天文単位)があること、これらが塵の分布に見られた溝と対応していることが示された。惑星が今まさに作られつつあるという説を支持する結果である。

おうし座HL星の周囲のHCO+ガスと塵の分布
おうし座HL星の周囲のHCO+ガス(青)と塵(赤)の分布。点線は円盤の隙間を示す(提供:ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Yen et al.)

とくに内側の溝ではガスの密度がじゅうぶん高くなっており、惑星系形成が進行している可能性が高いと考えられている。暗い溝と明るい環の明るさのコントラストや溝の幅と理論モデルとの比較から、研究チームはここに木星の0.8倍の質量を持つ惑星があると見積もっている。外側の溝については円盤内のガスと塵の摩擦によって物質が集積した結果である可能性も否定できないが、もし惑星の重力によるものだとすると木星の2.1倍の質量を持つ天体と考えられるという。

これまでの研究では、惑星の誕生には数千万年の時間が必要だと考えられており、約100万歳という若いおうし座HL星の周囲に複数の惑星がすでに形成されているとすれば、惑星形成に対する理解に大きな変更が迫られることになる。「これらの溝が実際に原始惑星によって作られたものであれば、私たちが考えていたよりずっと早い段階で惑星が作られ始めている、ということになります」(イェンさん)。

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