X線天文衛星「ひとみ」の復旧断念

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3月26日以降通信ができない状態にあったX線天文衛星「ひとみ」について、太陽電池パドルが両翼とも根元から分離した可能性が高いこと、物体分離後に受信された電波が「ひとみ」からのものではなかったと判断されたことから、衛星の機能回復は期待できないとして復旧断念が発表された。

【2016年4月28日 JAXA

X線天文衛星「ひとみ」(ASTRO-H)は、3月26日に姿勢異常が発生したと推測され、同日以降、電波の受信ができなくなっていた。異常を受けて航空研究開発機構(JAXA)では対策本部を設置し、不具合の全容解明、衛星状態の把握、衛星の機能回復に向け全力を尽くしてきた。

前回15日の記者発表会で姿勢異常と物体分離に至る推定メカニズムが公表されたが、28日の記者発表会ではその後の進展が報告され、「ひとみ」の復旧を断念することが発表された。

まず、物体の分離に至る推定メカニズムについてシミュレーションを含めた解析により、構造的に弱い部位である太陽電池パドルが両翼とも根元(本体とつながっている部分)から分離した可能性が高いことが判明した。つまり、太陽電池パドルの一部が残っている可能性は低く、すべて失われてしまったと考えられるということだ。複数の海外機関からも太陽電池パドルの両翼分離を示唆する情報が得られている。

またこれまでは、本来の周波数とは異なるものの、物体分離後も衛星からの電波を受信できていたと考えられていたが、この周波数が技術的に説明できず、さらに受信した(周波数がずれた)電波と同様の特徴を有する電波を発する別の衛星の存在が確認されたことから、受信した電波が「ひとみ」からのものではなかったと判断された。

以上より、JAXAでは、今後「ひとみ」が機能回復することは期待できない状態にあると判断し、衛星の復旧に向けた活動を取りやめることを決定した。残念ながら「ひとみ」とその分離物は、今後は宇宙デブリとして宇宙空間を漂うこととなる。また、チャンドラやXMMニュートン、NuSTARなど現在運用中の衛星もあるものの、次のX線天文衛星の計画は国際的に見ても2028年まで予定がなく、科学研究の面においても大きな損失となってしまった。

「ひとみ」チームは今後、衛星の設計・製造から運用までの各段階について、その背後も含めて徹底的な原因究明を目指すこととなる。後続となる計画につながるよう、原因究明や再発防止のための調査進展に期待したい。

アストロアーツニュース編集部でも、未知の世界へとこれからも開かれるであろう多くの“ひとみ”達に注目し、天文学や宇宙開発に対して多くの方からの支援につながるような天文情報発信を引き続き行っていく。

「ひとみ」の想像図
「ひとみ」の想像図(提供:JAXA)

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