高温ガスの抵抗で銀河団中心に落ちる銀河

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【2014年3月24日 東京大学理学系研究科

近傍と遠方の銀河団の観測研究から、銀河団中の銀河が高温プラズマガスの抵抗を受けてじょじょに銀河団中心へと落下してきていることがわかった。


研究チームの仮説を示した図

研究チームの仮説を示した図。クリックで拡大(提供:発表資料より)

近傍と遠方の銀河団と、その銀河分布

近傍(左)と遠方(右)の典型的な銀河団。青色がX線で観測された電離ガスを示す。数十億年前(右)よりも現在の方が銀河(緑)が中心に集中している。クリックで拡大(提供:RESCEU/Univ. of Tokyo/L. Gu et al., X-ray (NASA/CXC; ESA/XMM-Newton), Optical (Sloan Digital Sky Survey; University of Hawaii 2.2-meter telescope))

銀河の大集団である銀河団では、ダークマター(正体不明の重力源)の強い重力に引かれ、数百個の銀河が広大な空間を高速で飛び回っている。銀河団内の空間は真空ではなく、そこには約1億度という高温のプラズマガスが重力で閉じ込められ、X線を放射している。

従来の考えでは、銀河が銀河団の高温プラズマガスの中を運動する際、ガスは銀河に抵抗を及ぼさず銀河の内部をすり抜けるとされていた。だが1990年代、東京大学教授・牧島一夫さんらの研究グループがX線天文衛星「あすか」を用いて行った多数の銀河団ガスの観測から、この通説に疑問が持たれた。どんどん冷えて中心に流れ込んでいるとされていた銀河団ガスの温度が、何らかの原因で下げ止まっていたことがわかったのだ。

研究チームでは観測から以下のような仮説をたてた(画像1枚目)。銀河団ガスは電離しているため網目状に磁力線がからみつき、移動する銀河が磁力線に引っかかる。さらに銀河内ガスは銀河団ガスと衝突する。この2つの過程で抵抗を受けた銀河は銀河団中心に落下し、そのエネルギーが銀河団ガスに熱を与える。

その後の観測研究で傍証が得られてきたこの仮説を決定的なものとするべく、2010年からは近傍から遠方までの銀河団が多数調査された。その結果、数十億年前に比べて現代の銀河団では、銀河が高温ガスよりも中心に集まってきていることがわかった。銀河がじょじょに銀河団中心に向かって落下していることがより確実になったのだ。

銀河の中心落下にともなうエネルギーの受け渡しは、構造完成後の宇宙において最大級のエネルギー流と考えられる。研究チームでは今後、このエネルギー流が宇宙に与える影響や、銀河と高温ガスの相互作用を解明していきたいとしている。