131億光年かなたの銀河に「星の元祖」が存在か 宇宙史完成は間近

【2010年9月24日 愛媛大学宇宙進化研究センター

今年1月に発見された131億光年かなたの銀河が、宇宙最初の天体「第一世代の星」を含む可能性が高いことがわかった。宇宙誕生からたどる計算シミュレーションで存在が予測された天体を、時間をさかのぼって探る観測によって確認することは、137億年の宇宙史のトンネル貫通を意味する。


HSTで観測した131億光年かなたの銀河の画像

HSTで観測した131億光年かなたの銀河。クリックで拡大(提供:NASA, ESA, G.Illingworth, R.Bouwens (University of California, Santa Cruz), and the HUDF09 Team)

宇宙空間のガスの電離状態の歴史

宇宙空間のガスの電離状態の歴史。クリックで拡大(提供:愛媛大学 宇宙進化研究センター)

「宇宙の第一世代の星」とは、宇宙誕生から数億年後に生まれたとされる宇宙最初の天体のことだ。このような「宇宙の一番星」は、ビッグバンで生成された水素やヘリウムを主成分とする始原ガスから生まれる。星生成のもとになるガス雲を冷却する重元素(水素やヘリウム以外の重い元素。現在作られる恒星の材料となる)が存在しないので温度が高くなり、質量が大きくならないと重力が安定しないため、太陽の1000倍程度の大質量星となる。

すばる望遠鏡やハッブル宇宙望遠鏡により、はるか遠くの天体の光、つまり宇宙の過去の姿をさかのぼって観測して「宇宙の一番星」の姿に迫ることが試みられてきた。「宇宙の一番星」を実際に見るためには131億光年以上かなたを観測しなければならないが、これほど離れた銀河は遠ざかるスピードが速く、観測される光の波長が変わってしまう(赤方偏移する)ため、可視光線ではなく赤外線でなければ観測できない。

今年1月、ハッブル望遠鏡に搭載された赤外線カメラで131億年かなたの銀河(1枚目の画像)が発見されたが、この銀河が宇宙の一番星を含む可能性があるかどうかについて、愛媛大学宇宙進化研究センターの谷口義明氏らの研究チームが答えを出した。

宇宙は誕生直後、原子核と電子が飛び交うプラズマ状態にあった。40万年後、宇宙空間の膨張により温度が下がったため原子核と電子が結合して原子が誕生し宇宙はいったん中性化したが、約5億年後、これらの中性水素がふたたび水素イオンと電子に分かれる「再電離」が起こった(2枚目)。

この「再電離」を起こしたとされるのが、「宇宙の一番星」から放たれた紫外線の光子だ。発見された131億年前の銀河の紫外線光度はわかっていたので、それにもとづく光子の生成量と、そのうち銀河間空間に放射される割合などを検証したところ、この銀河に宇宙の第一世代の星が多数含まれていれば再電離を起こすことは可能、それより後の世代の星であれば困難、ということが判明した。

「宇宙の一番星」は太陽のような重元素を含む星に比べて同じ質量の星でも温度が高く、よりたくさんの光子が放射されるため宇宙の再電離に有効だ。また、大質量ゆえに寿命が短く超新星爆発がひんぱんに起こる。その爆風で周りのガスを電離することで光子が吸収されることなく銀河の外に離脱し、宇宙の再電離を起こすのを助けるのである。発見された銀河にも「宇宙の一番星」が含まれていた可能性が高く、そのような星々によって宇宙の再電離が進んでいったのであろう。

この「宇宙の一番星」の存在は、星の集団である「銀河」の歴史の開始点を意味し、これを観測することで銀河がどのように誕生したのかを理解することができる。また、星内部の核融合などの過程でできた重元素を材料とする子孫の星々ではなく、始原ガスのみから生まれた第一世代の星を調べることは、未知の物理過程を探ることにもつながると期待されている。

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