宇宙の環境問題:銀河群に交われば赤くなる

【2008年10月31日 すばる望遠鏡

現在の宇宙では、銀河が密集したところとまばらなところがあり、密集した銀河には赤いものが多く、孤立した銀河には青いものが多い。すばる望遠鏡によれば、この傾向は宇宙と銀河の歴史の中でも早い段階から現れていたようだ。


(85億年前の銀河団)

85億年前の銀河団(右下)と銀河群。白い矢印は当時のものと見られる銀河、等高線はその密度を表す。クリックで拡大(提供:すばる望遠鏡、国立天文台)

(80億年前の銀河団)

80億年前の銀河団(左上と左下)と銀河群。クリックで拡大(提供:すばる望遠鏡、国立天文台)

太陽が天の川銀河にあるように、恒星は巨大な集団、銀河に所属している。その銀河も、宇宙の中でばらばらには存在しない。現在の宇宙では、数百の銀河が集まった銀河団を中心に、銀河団と銀河団を結ぶように銀河が網目状に分布し、「宇宙大規模構造」を形成している。

銀河の種類も多様だが、大きく2つに分けると、青い渦巻銀河と赤い楕円銀河がある。銀河が青いということは若い星が多いことを意味し、渦巻銀河では星が盛んに生まれている。逆に楕円銀河は年老いた赤い星ばかりであり、星の生産がとだえていることになる。

こうした銀河の種類は、環境に大きく左右される。銀河団の中では赤い銀河、孤立した環境では青い銀河が多いのだ。若い星は青いので、生まれたての銀河も青い色をしているはずだ。ということは、銀河は集団に交わることでいつの間にか赤くなると言えるのだが、いつから銀河は集まり、どうやって赤くなったのだろうか?

ヨーロッパ南天天文台の田中賢幸氏と国立天文台の児玉忠恭氏によれば、銀河が集まり始めたのも、集まりだしてから銀河が赤くなったのも、かなり早かったようだ。

田中氏らはすばる望遠鏡で約80億年前および約85億年前の2つの銀河団を観測した。宇宙の歴史を半分以上さかのぼったことになるが、銀河団のまわりには規模の小さな銀河集団・銀河群が分布していて、すでに宇宙大規模構造が形成されつつあることがわかる。

興味深いことに、銀河団だけでなく銀河群の中でも赤い銀河が多く見られた。理論的に考えると、このような環境では銀河どうしの衝突が起きやすい。銀河が衝突合体すると、星が爆発的に形成されて材料が大量に消費され、その後の星形成が抑えられる可能性がある。これまでは、巨大な重力場といった銀河団特有の環境が銀河の進化を左右しているとされていたが、銀河団を形成する以前の、たかだか数十個規模の集団ができた段階で、銀河は変化していくのかもしれない。