痕を残したのは流星? いえ、れっきとした恒星です

【2007年8月16日 NASA JPL

夏休みは流星シーズンということで、流星が通ったあとの「流星痕」にも見えるこちらの画像。その正体は流星痕ではなく、彗星の尾でもなく、何とみずから輝く正真正銘の「恒星」が、移動しながら残した物質なのだ。


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GALEXがとらえたミラの「しっぽ」。右側がミラで、左下の星はわれわれから見て手前にある別の恒星。しっぽは紫外線でしか輝いていないため、今まで見過ごされてきたようだ。クリックで拡大(提供:NASA/JPL-Caltech)

われわれがふだん「流星」と呼んでいるのは、大気圏に突入した微粒子が引き起こす発光現象で、流れたあとにはまれに「流星痕」と呼ばれる筋状の雲のような跡が残る。それに対して「彗星」は氷などでできた太陽系天体で、太陽に近づくとガスやちりを放出して尾を形成する。どちらも、太陽系のはるか外に位置する「恒星」とはまったく関係がない。

ところが、流星痕や彗星の尾と見まがうような前代未聞の「しっぽ」を持つ恒星が見つかった。その恒星はくじら座の方向350光年の距離にある「ミラ」で、NASAの紫外線天文衛星GALEXが撮影した画像で尾の存在が明らかになった。

ミラはおよそ332日周期で3等から9等まで明るさを変える有名な変光星で、今年の2月には1等台まで明るくなって話題になった。その正体は赤色巨星、つまり太陽のような星が年老いた姿だ。エネルギーのバランスが不安定で大きく膨張していて、収縮を繰り返すことで明るさを変えるのだが、同時に外層からは物質が逃げ出している。

ふつう、逃げ出した物質は球殻状に広がり、死を迎えた恒星をとりまく「惑星状星雲」として観測される。ところが、ミラは秒速130キロメートルという赤色巨星としては異常な速度で恒星間空間を移動している。そのため、放出された物質が後に取り残されているのだ。「しっぽ」の長さは13光年もあり、3万年分の経路に相当する。

「これはまったく見たことのない現象で、どのようなメカニズムが作用しているのか現在も解明しようとしている最中なのです」と語るのは「しっぽ」を研究する天文学者の一人、米国カーネギー天文台のMark Seibert氏。「ゆくゆくは記録紙を読むように、ミラのしっぽを通じてその生涯を知ることができればと考えています」