すばるが宇宙の果てにある銀河の種を発見

【2003年12月3日 国立天文台・天文ニュース(687)

東北大学を中心とする共同研究チームは、すばる望遠鏡による観測から、現在の宇宙にある典型的な銀河の数百分の一の質量しかない、軽い銀河を発見しました。宇宙が生まれてわずか10億年しかたっていないころにある銀河であり、「銀河の種」といってもいいような銀河です。

私たちの住んでいる天の川銀河や、近傍の宇宙にある典型的な銀河は、太陽質量の1000億倍以上も質量があり、大きさも10万光年を超えています。しかし、銀河は生まれた時からこのような巨大なものではありませんでした。現在観測されている銀河の数百分の一から数千分の一ぐらいの質量の軽い銀河がまずできて、それらが少しずつ合体して、現在観測されるような銀河に成長してきたと考えられています。このような銀河誕生のシナリオを検証するためには、若い宇宙にある質量の軽い銀河を発見する必要があります。

今回の発見は、まさにこのシナリオを裏付ける最初の証拠であり、銀河の成長過程を知る上で、貴重な手がかりになると期待されています。

東北大学の谷口義明(たにぐちよしあき、助教授)さんらは、可視光線で、波長が810から822ナノメートルの光のみを通すフィルター(NB816)をすばる望遠鏡の広視野撮像カメラSuprime-Camに取りつけました。

宇宙が誕生して間もないころの銀河が発するライマンα(アルファ)線(水素原子が放射するスペクトル線、波長122ナノメートル)は、赤方偏移により、開発したフィルターが通す波長800ナノメートル付近の光として観測され、このフィルターで非常に明るく輝くと考えられます(期待される赤方偏移は約5.7です)。

34分角x27分角と満月が入るほどの大きな視野を備えたSuprime-Camとこのフィルターの組み合わせは、遠方の銀河を探査するために最適な組み合わせになります。

研究チームは、ろくぶんぎ座にあるSDSSpJ104433.04-012502.2と呼ばれる遠方のクエーサーと同距離に存在している銀河を探すため、クエーサーの周囲を10時間にもわたって撮影しました。その結果、開発したフィルターによる画像のみに明るく写る15個以上の銀河を発見することに成功しました。

それらのうち、遠方の銀河である可能性の高い一つの天体に対し、すばる望遠鏡と同様にマウナケア山頂にあるケックII望遠鏡に取りつけた観測装置を用いて、この銀河の詳しい分光観測を行ないました。その結果、この銀河の水素ガス雲のランダムな運動速度は非常に小さく、質量が、私たちの住んでいる天の川銀河の数百分の一、天の川銀河のお供をしている小マゼラン雲程度しかないことがわかりました。

最新の宇宙モデルに基づけば、今回発見された銀河の種は、宇宙誕生から12億年後のものになります。このような銀河の種は、宇宙が誕生してから数億年後にでき始めると考えられています。

今後は、現在開発中のすばる望遠鏡用の新しい赤外線カメラ(MOIRCS)を用い、可視光線より波長の長い近赤外線帯(波長1から3マイクロメートル)で同様な観測を行うことにより、生まれたての銀河の種を見つけていきたいと考えています。

注:この天文ニュースは、国立天文台 光学赤外線天文学・観測システム研究系今西昌俊(いまにしまさとし)さんにいただいた原稿を元に作成しました。

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