彗星のスペクトル観測で窒素の同位体が検出された

【2003年9月18日 ESO Press Release9月20日更新

(9月20日更新分)

本ニュースの内容に関し、ぐんま天文台の浜根寿彦氏よりコメントをいただきました。以下は浜根氏のコメントを要約した内容です。

CCDカメラ導入後の彗星の分光観測には10年以上の歴史があり、中低分散では14等級程度まで分光観測されている。欧米で2グループが10年以上に渡って観測を続けている他、国内では浜根氏らぐんま天文台などのグループがここ数年彗星の低分散分光観測を行っており、彗星の化学分類や特徴づけなどを試みている。

ニュースリリースの原文では「『高分散分光器(UVES spectrograph)では』初めての暗い彗星の観測である」となっており、暗い彗星の観測がまったくなかったということではない。

ご指摘いただいたとおりESOUVESによる観測としては初めてということです。本ニュースではそのような観測がこれまでまったく行われていなかったかのような誤解を招く表現となっておりました。

研究者、読者のみなさまにお詫びいたしますとともに、貴重なコメントをくださった浜根氏に感謝いたします。ありがとうございました。

なお、以下のニュース本文は18日の公開時のものそのままとしてありますが、上記コメントの内容を踏まえてお読みください。


ESO(ヨーロッパ南天天文台)の口径8.2m VLT(The Very Large Telescope)による彗星の分光観測で、彗星中に窒素同位体が含まれていることが明らかになった。

リニア彗星 C/2000 WM1。左下は分光器の配置を示した図(提供:Gordon Garradd, ESO

分光観測でスペクトルが撮影されたのはリニア彗星C/2000 WM1で、2002年3月中旬に観測が行われた。このときリニア彗星は太陽から1億8000万km、地球からは1億8600万km離れており、9等級の明るさであった。これほど暗い彗星の分光観測が行われたのは初めてのことである。

スペクトルの解析から、リニア彗星に窒素の同位体15Nが含まれていることが明らかになった。これまでにこの同位体が見つかっている彗星は、1997年に明るく見えた有名なヘール・ボップ彗星しかなく、今回のリニア彗星で2例目ということだ。通常の窒素(14N)に対する15Nの量は、15N原子1個あたり14N原子140個前後で、これはヘール・ボップ彗星の可視光スペクトルから観測された割合とほぼ同じである。一方、この割合は地球での値(272)やヘール・ボップ彗星の電波観測から求められた値(330前後)とは大きく異なっている。この違いは、スペクトルによって同定される窒素の元となる分子が違うためだと考えられている。また、観測では炭素の同位体13C(普通の炭素は12C)も観測されている。

これまでの彗星のスペクトル観測では明るい彗星のスペクトルしか得られなかったため、観測された結果が彗星一般について言える性質なのか、それとも明るい彗星に特有の性質なのかがわからなかった。今回、暗い彗星の観測結果が得られ、窒素同位体の割合が同程度であるという結果が得られたことで、この結果は彗星に一般的な性質である可能性が高くなった。研究グループは、さらに他の彗星を観測し、彗星の性質や成分をより詳しく調べようとしている。

また、彗星は太陽系が形成された当時の情報をそのまま残している天体であると考えられている。彗星の観測から、太陽系の起源、特に地球の起源や生命体の誕生を理解する手がかりが得られるかもしれない。今後の彗星研究に大いに注目したい。